女性向け通販ビジネスを展開する千趣会は、加速するビジネススピードと市場変化に対応できるITシステム環境の実現を目指し、 「クラウドファースト」に舵を切った。それまで利用していたオンプレミス環境をすべてAWS( Amazon Web Services)に移行す る「脱ホスト」プロジェクトで、データインテグレーションツールとして導入したのは「Qlik Replicate」だった。「ロードのスピードと 操作性は想像以上」と評価されたQlik Replicateは、千趣会のITシステム構築にどのような価値をもたらしたのだろうか。
拡張性とビジネススピードを重視して 「クラウドファースト」に舵
「ウーマン スマイル カンパニー」をビジョンに掲げる千趣会。1955年設立の同社は「ベルメゾン」ブランドを中心としたカタログやEC通販ビジネスのほか、保育園事業など女性のライフサイクルに寄り添ったビジネスを展開している。
ベルメゾンの会員数は約248万人(2021年末時点)で、その多くは30代~50代の女性だ。近年は女性たちのライフスタイルとニーズが多様化している。千趣会ではその変化をいち早く捉え、積極的に新規サービスを提供し続けている。千趣会でコーポレート本部 IT戦略部 IT企画・DX推進チーム 兼 システム管理チームで務める池本修幸氏は、「顧客ニーズの変化に応じてビジネスを展開するには、柔軟に拡張・縮小できるシステム環境が不可欠です。そのためには『クラウドファースト』が大前提になります」と語る。
千趣会では2013年からAWSの活用に取り組んでいる。2022年1月にはそれまでオンプレミス環境で運用していた「IBM Db2 for z/OS」を、すべてAWS上の「PostgreSQL」に移行する「脱ホスト」プロジェクトを実施した。その理由について池本氏は、「人的配置やコスト、そしてコンピューティングリソースの面から、オンプレミス環境は限界だと判断しました」と説明する。
「オンプレミス環境では管理・運用が属人化する傾向にあります。そのため、担当エンジニアが退職すると、カスタマイズした部分の運用がブラックボックス化するという課題がありました。また、多少の機能追加や変更でも、その影響を調査するだけで数ヶ月を要し、ビジネスのスピードを阻害していたのです」(池本氏)。
池本氏がデータの移行でまず重視したのは、「いかに素早く、かつセキュアにデータを移行させること」である。特にこれまでIBM南港DCのプライベートクラウドで運用していたECサイトは、物流拠点やコールセンターと密に連携している。そのため、停止時間を極力短くし、インパクトを最小限にすることが大命題だった。さらにデータは顧客の個人情報を包含しているため、データ漏洩リスクは回避しなければならない。そのため移行プロジェクトにおいて開発及びテスト環境データのマスキングはもちろん、移行漏れやマスク漏れが発生しないような仕組みが必要だった。
もう1つ重視したポイントは、「移行作業のタイミング」である。ECサイトは膨大なオンライントランザクションが常時発生しており、停止のタイミングを決めるのは難しい。特に今回のプロジェクトはIBM Db2 for z/OSからPostgreSQLという異種間のデータ移行だったため、移行方法やスケジュールなどが見通せない状態だったという。 「そうした課題をAWSの担当者に相談したところ、市場での評価が高く、国内でも導入事例が多いデータリプリケーションツールの『Qlik Replicate』を紹介されました」(池本氏)
フルロードのスピードは予想以上、 UIの操作性にも満足
Qlik Replicateはマルチデータベース間のリアルタイムレプリケーションを実現するデータインテグレーションソリューションだ。池本氏は「Qlik Replicate はAWSとの親和性が高く、IBM Db2 for z/OSをダイレクトにAWSのPostgreSQLへ移行できることから導 入を決めました」と語る。
Qlik Replicateは独自のCDC(Change Data Capture)技術を備える。これはソースデータベースの変更データログを読み込み、ターゲットデータベースに変更データのみを反映する技術だ。そのため、データ抽出・ロードのスピードが速く、ほぼリアルタイムでのデータ移行を実現できる。またInsight Data MaskingをQlik Replicateへアドオンすることにより開発環境・テスト環境で利用するデータをマスクすることが可能になる。
池本氏は「フルロードのスピードは当初の想定以上でした」と評価する。一般的なETL(データ抽出・加工・ロード)ツールではデータをダウンロードしてからコピーしてリロードするため、時間がかかる。一方、Qlik Replicateでは導入時のフルロードから差分同期への移行はシームレスに実行される。
「Qlik Replicateは多重処理で読み込めるため、データを一気に移行できます。脱ホストプロジェクトでは本番とテストで100インスタンス超を移行しましたが、一番大きなデータベースのテーブルでも3時間で全件を移行できました。また、移行する際のメインシステムに対する負荷が少ないことも優れていると感じました」(池本氏)。
もう一つ、池本氏が評価するのはQlik Replicateの操作性だ。Qlik ReplicateはWebベースのUI(ユーザーインタフェース)を採用しており、移行時のデータベーススキーマのマッピング構成や変換、フィルタリングといった操作はすべてGUIで直感的に実行できる。池本氏は「一度使い方を覚えれば、操作に戸惑うことはありません。また、事前に決まったテーブル定義は登録しておけるので、作業を横展開しやすく、運用効率の観点からも優れていました」と、その使用感を語る。
千趣会では2021年から2022年の年末年始のタイミングでデータを移行した。全データをAWSに移行したことで、システムを柔軟にスケールできる環境がほぼ整いつつある。これにより、オンプレミス環境で発生していた「回線速度がボトルネックになりリクエストを処理できない」というトラブルも回避できるようになった。
また、以前は期間限定でクーポンを配信するようなプロモーションを行うと一時的にアクセスが集中し、パフォーマンスが低下してしまうこともあった。しかし、AWSに移行してからはそうした懸念もなくなったという。
「かゆいところに手が届く」 インサイトテクノロジーの技術支援体
実は脱ホストプロジェクトで、池本氏がもっとも評価しているのはインサイトテクノロジーの技術支援体制だ。
実際の移行作業ではQlik Replicateの使い方をインサイトテクノロジーの技術担当者が伝え、千趣会側でテーブルの定義などを作成して作業に臨んだ。とはいえ、データ移行の立会いやトラブルシュー ティングなど、エンドユーザーだけでは対応が難しい場面も発生する。池本氏は「インサイトテクノロジーは導入・運用フェーズでも柔軟に対応してくれました」と当時を振り返り、以下のように語る。
「われわれにとってインサイトテクノロジーははじめてのお付き合いだったのですが、プリセールスから実際の作業・運用に至るまで、全フェーズで支援してもらいました。トラブル対応などは質問すると即 座に答えを返してくれる。かゆいところに手が届く対応で感謝しかありません」(池本氏)。
データ活用が重要であることは理解しつつも、社内の人的リソースが割けないなどの理由から、新規サービスの開発やデータ駆動型ビジネスへの挑戦に二の足を踏んでしまう企業は少なくない。しかし 「現状維持のシステム運用」の先にあるのは、競争力の低下だ。
「経済産業省が指摘した『2025年の崖』は目前に迫っており、解決すべき喫緊の課題です。AWSの活用やそれに伴うデータ移行をするためには、エンドユーザー側もある程度の勉強が必要です。しか し、インサイトテクノロジーのような信頼できる外部ベンダーの力を借りれば、決して実現できないことではありません」と池本氏は締めくくった。